令和6年度(2024年度)司法書士試験、午前の部・第6問の解説です。
「時効」は民法の中でも超頻出テーマ。特に「誰が時効を援用(主張)できるのか?」という点について、判例の結論をしっかり押さえるのが合格への近道です。
問題文
時効に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。 ※商法の適用は考慮しないものとして、解答してください。
ア 不動産の贈与を受け、所有権に基づいて自己の物として不動産を占有する者は、当該不動産について、取得時効を理由として所有権を有することを主張することができない。
イ 期限の定めのない債権の消滅時効は、債務者が履行の請求を受けた時から進行する。
ウ 後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅により当該後順位抵当権者に対する配当額が増加する場合には、当該先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができる。
エ 時効期間を計算するに当たっては、その期間が午前零時から始まるときを除き、期間の初日は算入しない。
オ 主たる債務者が主たる債務について時効の利益を放棄した場合においても、保証人は、主たる債務の消滅時効を援用することができる。
ア:所有権者による取得時効の主張
問題文: 不動産の贈与を受け、所有権に基づいて自己の物として不動産を占有する者は、当該不動産について、取得時効を理由として所有権を有することを主張することができない。
【結論:誤り】
「自分のものとして占有しているのだから、わざわざ時効なんて言わなくてもいいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、判例(最判昭42.7.21)は、たとえ本当の所有者であっても、取得時効を主張して所有権を証明することはできるとしています。
実務上、「もらった(贈与)」という証拠が不十分な場合でも、「ずっと住んでいる(時効)」という証拠があれば、確実に権利を守ることができるため、このような主張が認められています。
【参照条文:民法第162条(所有権の取得時効)】
1 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と、他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
イ:期限の定めのない債権の消滅時効
問題文: 期限の定めのない債権の消滅時効は、債務者が履行の請求を受けた時から進行する。
【結論:誤り】
消滅時効のカウントダウンは、「権利を行使することができる時」から始まります。
期限の定めのない債権(例:いつでも返してと言える借金)は、債権が発生した瞬間から、いつでも請求ができるはずです。そのため、債権が発生した時(=客観的に権利行使が可能な時)から時効は進行します。
「請求した時から」ではありませんので、注意しましょう。
【参照条文:民法第166条1項】
消滅時効は、次に掲げる場合には進行する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
ウ:後順位抵当権者による時効援用
問題文: 後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅により当該後順位抵当権者に対する配当額が増加する場合には、当該先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができる。
【結論:誤り】
時効の援用(主張)ができるのは、時効によって直接利益を受ける人に限られます(民法145条)。
判例(最判昭37.7.20)では、後順位抵当権者は、先順位の借金が消えれば自分がもらえるお金(配当)が増えるという関係にすぎず、それは単なる「反射的な利益」であって、法律上の直接の利害関係ではないと判断されています。
したがって、後順位抵当権者が勝手に先順位の時効を主張することはできません。
【参照条文:民法第145条(時効の援用)】
時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
エ:時効期間の起算点(初日不算入)
問題文: 時効期間を計算するに当たっては、その期間が午前零時から始まるときを除き、期間の初日は算入しない。
【結論:正しい】
法律上の期間計算には「初日不算入」という大原則があります(民法140条)。 例えば、午後3時に発生した権利の時効は、その日はカウントせず、翌日の0時から数え始めます。ただし、ぴったり午前0時に発生した場合は、その日を丸一日カウントできるため、初日から算入します。
これは時効だけでなく、法律全般の基本的なルールです。
【参照条文:民法第140条(初日不算入)】
日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
オ:債務者の時効放棄と保証人
問題文: 主たる債務者が主たる債務について時効の利益を放棄した場合においても、保証人は、主たる債務の消滅時効を援用することができる。
【結論:正しい】
時効の放棄は、あくまで「その人一人」の効力です(相対的効力)。
お金を借りた本人(主たる債務者)が「時効を使いません(放棄します)」と言っても、保証人までその道連れにするのは酷です。
判例(最判昭42.8.18)でも、保証人は主たる債務者の意向にかかわらず、独自に時効を援用できるとされています。
【参照条文:民法第145条】
(※条文自体に「当事者(……保証人……を含む。)」とあり、保証人に独自の援用権があることが明示されています。)
まとめ
本問の正解は 4(エ・オが正しい) です。
特に今回の重要ポイントは以下の2つです。
- ウ: 後順位抵当権者は、先順位債権の時効を援用できない(最重要判例)
- オ: 保証人は、主務者が時効を放棄しても、独自に時効を援用できる
時効は「誰が、いつから、何を言えるか」という登場人物の整理が大切です。 図を描きながら、それぞれの立場をイメージして学習を進めていきましょう!

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