【令和6年度 司法書士試験】午前の部 第8問:民法「相隣関係」の完全解説

2026年5月23日土曜日

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令和6年度(2024年度)司法書士試験、午前の部・第8問の解説です。


テーマは「相隣関係(そうりんかんけい)」。隣り合う土地の所有者同士のトラブルを防ぐためのルールです。 この分野は令和3年の民法改正でガラッと変わったホットな単元(特に電気・ガスの引き込み関係)ですので、最新の条文知識をしっかり整理しておきましょう。


問題文

相隣関係に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。なお、別段の慣習の有無を考慮する必要はない。商法の適用は考慮しないものとして、解答してください。


堀の所有者は、対岸の土地が他人の所有に属するときは、当該土地の所有者の承諾を得なければ、当該堀の幅員を変更してはならない。

土地の所有者は、その所有地の水を通過させるに当たり、低地の所有者の承諾を得なければ、当該低地の所有者が設けた工作物を使用することはできない。

水流地の所有者は、他人が所有する対岸の土地に付着させて堰(せき)を設けたときは、これによって生じた損害に対して償金を支払わなければならない。

土地の所有者は、他の土地に設備を設置しなければ電気の供給を受けることができない場合であっても、当該他の土地の所有者の承諾を得なければ、当該設備を設置することはできない。

  土地の所有者が境界付近における障壁の修繕をするために隣地を使用する必要がある場合であっても、隣地上の住家については、その居住者の承諾を得なければ、立ち入ることはできない。


【選択肢】 1:ア ウ 2:ア オ 3:イ ウ 4:イ エ 5:エ オ


 

ア:堀の幅員の変更について


【問題文】 堀の所有者は、対岸の土地が他人の所有に属するときは、当該土地の所有者の承諾を得なければ、当該堀の幅員を変更してはならない。


どんな状況?(状況イメージ)

Aさんの土地とBさんの土地の境界に、Aさんが所有する「水路(堀)」が流れています。Aさんが「水路をもっと広げよう」と勝手に工事をはじめると、対岸にあるBさんの土地が削られて狭くなってしまいます。そんな勝手な変更は許されるの?というお話です。


【結論:正しい(として扱う)】

民法第2191項には「水路又は幅員を変更してはならない」とストレートに禁止されています。

ただし、今回の問題文には「相手の承諾を得なければ、変更してはならない」と書かれています。法律の基本原則として、不利益を受ける相手(対岸の土地の所有者)が「いいよ!」と承諾してくれているのであれば、変更しても何の問題もありません。

そのため、本肢は「正しい」と判断して進めて大丈夫です(実際の試験でも、他の選択肢が明確にバツなので合否に影響はありません)。


【参照条文:民法第2191項(水流の変更)】

溝、堀その他の水流地の所有者は、対岸の土地が他人の所有に属するときは、その水路又は幅員を変更してはならない。


 

イ:低地の工作物の使用について


【問題文】 土地の所有者は、その所有地の水を通過させるに当たり、低地の所有者の承諾を得なければ、当該低地の所有者が設けた工作物を使用することはできない。


どんな状況?(状況イメージ)

高台にあるAさんの土地から水(雨水など)を流したいのですが、崖下にあるBさんの土地にはすでにBさんが作った立派な「排水溝(工作物)」が通っています。Aさんは「ラッキー、Bさんの排水溝にうちの水も合流させてもらおう!」と思いつきました。Bさんの許可(承諾)は絶対に必要でしょうか?


【結論:誤り】

民法第2211項により、土地の所有者は、自分の土地の水を流すために、隣の人が作った工作物(排水溝など)を「承諾なしで」使うことができます。

なぜなら、AさんがわざわざBさんの土地に新しい排水溝をもう1本掘るよりも、すでにあるものをシェアした方がBさんの土地を荒らさずに済むからです。

ただし、タダ乗りは許されません。同条2項により、Bさんの工作物の設置費用や修理・維持にかかる費用は、それぞれが流す「水の量(利益を受ける割合)」に応じて負担しなければならないと定めされています。

「承諾を得なければ、使用することはできない」とする本肢は誤りです。


【参照条文:民法第221条(排水のための工作物の使用)】

1項 土地の所有者は、その所有地の水を通過させるため、高地又は低地の所有者が設けた工作物を使用することができる。 2項 前項の場合には、他人の工作物を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、工作物の設置及び保存の費用を負担しなければならない。


 

ウ:対岸への堰(せき)の付着と償金について


【問題文】 水流地の所有者は、他人が所有する対岸の土地に付着させて堰(せき)を設けたときは、これによって生じた損害に対して償金を支払わなければならない。


どんな状況?(状況イメージ)

Aさんの土地とBさんの土地のあいだに、幅12メートルほどのちいさな小川(用水路)が流れている、以下のような状況をイメージしてください。


Aさんの敷地(畑)】

-----------------------(川のこちら側の岸)

   〜〜 小川 〜〜

-----------------------(川の向こう側の岸:対岸)

Bさんの敷地(畑)】

Aさんは自分の畑に小川から水を引き入れたいのですが、水位が低いため、川の中に仕切り板を並べてちいさな「水止め(堰)」を作ろうと考えました。

しかし、仕切り板をしっかり固定するためには、自分の岸(Aさん側)だけでなく、川の向こう岸にあるBさんの土手(対岸)にも板の端をグサッと突き刺して突っ張る(付着させる)必要があります。

民法は、「Aさん、Bさんの土手を使って水止めを作ってもいいよ。その代わり、土手を傷つけたりした分の迷惑料(償金)はBさんにしっかり払いなさいね」というルールにしています。


【結論:正しい】

民法第2221項により、水を引きたい人は、対岸の土地が他人のものであっても「堰(せき)」を対岸にくっつけて設置することができます。(いちいち拒否されて農業ができなくなったら困るからです)。

ただし、相手の土地にガッチリと工作物を付着させる以上、それによって相手に与えた損害に対しては、しっかり「償金(弁償金)」を支払わなければなりません。

したがって、本肢の記述は正しいです。


【参照条文:民法第2221項(堰の設置及び使用)】

水流地の所有者は、堰を設ける必要がある場合には、対岸の土地が他人の所有に属するときであっても、その堰を対岸に付着させて設けることができる。ただし、これによって生じた損害に対して償金を支払わなければならない。


 

エ:ライフラインの設備設置について【超重要 改正事項】


【問題文】 土地の所有者は、他の土地に設備を設置しなければ電気の供給を受けることができない場合であっても、当該他の土地の所有者の承諾を得なければ、当該設備を設置することはできない。


どんな状況?(状況イメージ)

新しく家を建てたAさん。電気を引きたいのですが、電柱からAさんの家へ電線を引っ張るには、どうしても隣のBさんの土地の上空を通過させるか、Bさんの土地に小さなポール(設備)を立てさせてもらう必要があります。もし隣のBさんが偏屈な人で「絶対に嫌だ!」と拒否(承諾を拒絶)したら、Aさんは一生電気のない生活をしなければならないのでしょうか?


【結論:誤り】

これは令和3年の民法改正で非常にすっきり整備された、実務上もっとも重要なルールです(民法第213条の2)。

電気が使えないのは死活問題です。そのため、他の土地に設備を置かせてもらわなければ電気・ガス・水道の供給を受けられない場合、土地の所有者は、必要な範囲内で「隣人の承諾がなくても」他の土地に設備を設置することができます。

もちろん、隣の人に最も迷惑がかからない場所を選び、事前に通知し、場所代(償金)を払う必要はありますが、「承諾を得なければ設置できない」わけではありません。

したがって、本肢は誤りです。


【参照条文:民法第213条の21項(継続的給付を受けるための設備の設置権等)】

土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下この条において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。


💡 一歩先へ!「これって地役権じゃないの?」と思った方へ

勉強が進んでいる方ほど、このエの記述を見て**「他人の土地に設備を置くのって、地役権(ちえきけん)の話じゃないの?」**と疑問に思ったかもしれません。非常に鋭い着眼点です!

結論から言うと、やっている中身は地役権(法定地役権的なもの)とほぼ同じです。しかし、以下の違いがあります。

·         地役権(民法280条〜): 隣人と「契約」して成立する権利。相手が拒否したら使えない。

·         相隣関係(民法213条の2): 法律によって「自動的」に発生する権利。相手の承諾は不要。

以前は隣人と話し合って「地役権」を設定するのが基本でしたが、隣人が行方不明だったり拒絶されたりすると電気が引けない問題がありました。そこで令和3年の改正により、**「契約(承諾)がなくても、法律の力で当然に引き込める権利」**として、この相隣関係のルール(ライフライン設置権)が新設されたのです。

試験では**「地役権の合意がなくても、相隣関係に基づいて設置できる(承諾は不要)」**という区別が超重要になりますので、しっかり整理しておきましょう!


 

オ:境界の修繕と隣の「住家」への立ち入りについて


【問題文】 土地の所有者が境界付近における障壁の修繕をするために隣地を使用する必要がある場合であっても、隣地上の住家については、その居住者の承諾を得なければ、立ち入ることはできない。

どんな状況?(状況イメージ)

AさんとBさんの敷地の境界にある「ブロック塀(障壁)」がボロボロになり、崩れそうで危険なので修繕工事をすることにしました。工事をするには、どうしても隣のBさんの敷地(庭)に入る必要があります。さらに、塀の真横にあるBさんの「家の中(住家)」をすり抜けないと作業現場に行けません。庭に入るのと、家の中に入るの、どちらもBさんの承諾が必要でしょうか?

【結論:正しい】

隣の土地(庭など)に立ち入るだけであれば、基本的には「必要な範囲で使える」という権利が認められています。隣人が留守でも、事前に通知すれば基本的には入って作業できます(拒否されたら裁判を起こします)。

しかし、「住家(家の中)」だけは別格です。 プライバシーと防犯の観点から、いくら工事のためとはいえ、居住者の承諾(許可)が絶対に必要です。もし承諾が得られなければ、たとえ裁判を起こしても勝手に家の中に立ち入ることはできません。

したがって、本肢の記述は正しいです。

【参照条文:民法第2091項(隣地の使用請求)】

土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる.ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。 一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕 (以下省略)



まとめ


誤っている記述の組合せは なので、正解は 4 です。

本問を解く上での最大の鍵は、やはりエ(ライフラインの引き込み)でした。 「電気・ガス・水道は、承諾がなくても必要な範囲で他人の土地に線を引ける!」という改正民法の超基本ルールさえ覚えていれば、イとエのペアを秒速で見つけ出すことができます。

また、イにあるように「承諾なしで使わせてもらえる代わりに、費用は割り勘(利益の割合による)」という民法独特の合理的なバランス感覚もあわせて知っておくと、暗記に頼らず深く納得して問題が解けるようになります。

相隣関係は一見地味ですが、現代の住宅事情(ご近所トラブル)に直結する非常に実務的なテーマです。具体的なシチュエーションを想像しながら、楽しくマスターしていきましょう!

 



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