【令和6年度 司法書士試験】午前の部 第12問:民法「先取特権」の完全解説

2026年6月7日日曜日

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令和6年度(2024年度)司法書士試験、午前の部・第12問の解説です。


テーマは「先取特権」。


契約で設定する抵当権などとは違い、「法律が認めた特定のジャンルの債権(お給料や、物の修理代など)を持っている人は、他の債権者よりも先に、債務者の財産から優先的にお金を回収していいよ」という、法律がお墨付きを与えた強力な権利です。

先取特権は、条文のルールがそのまま引っかけ問題として出題されることが非常に多い単元です。言葉の定義や、実務での登記のタイミングを意識しながら整理していきましょう!




問題文


先取特権に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。

商法の適用は考慮しないものとして、解答してください。

 

共益の費用のうち全ての債権者に有益でなかったものについては、共益の費用の先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。

 

建物の賃借権の譲渡が適法にされた場合であっても、建物の賃貸人の先取特権は、賃借権の譲受人がその建物に備え付けた動産には及ばない。

 

不動産の工事の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増加額についてのみ存在する。

 

同一の動産について動産の保存の先取特権が互いに競合する場合には、前の保存者が後の保存者に優先する。

 

不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには、保存行為の前にその費用の予算額を登記しなければならない。

 

【選択肢】

1:ア イ 2:ア ウ 3:イ エ 4:ウ オ 5:エ オ

 

 

 

ア:共益の費用の先取特権と受益者

 

【問題文】

共益の費用のうち全ての債権者に有益でなかったものについては、共益の費用の先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。

 

【結論:正しい】

どんな状況?(状況イメージ)

 

解説

条文(民法3072項)の規定そのままで、正しい記述です。

みんなのための費用だからこそ最優先(総財産からの先取特権)にしてもらえるわけですから、全員にメリットがなかった費用については、「得をした人(利益を受けた債権者)に対してだけ」しかパワーを発揮できません。不公平をなくすための当然のルールです。

 

📄 【根拠条文:民法第307条(共益の費用の先取特権)】

共益の費用の先取特権は、債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在する。

前項の費用のうちすべての債権者に有益でなかったものについては、先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。

 

 

イ:不動産賃貸借の譲渡と先取特権の範囲

 

【問題文】

建物の賃借権の譲渡が適法にされた場合であっても、建物の賃貸人の先取特権は、賃借権の譲受人がその建物に備え付けた動産には及ばない。

 

【結論:誤り】

 

どんな状況?(状況イメージ)

大家さんは、店借人が家賃を滞納したときのために、店借人が部屋に持ち込んだ家具やテレビなどの動産を売って、そこから家賃を回収できる先取特権を持っています。

では、店借人が別の新しい人(譲受人)に、適法に部屋(賃借権)を譲り渡した場合はどうなるでしょうか?大家さんの先取特権は、新しく入ってきた人が持ち込んだ家具にも及ぶでしょうか?

 

解説

民法314条により、賃借権が適法に譲渡された場合、大家さんの先取特権は、新しい入居者(譲受人)が持ち込んだ動産にもバッチリ及びます。

もしこれが及ばないとなってしまうと、家賃を滞納している店借人が、名義を他人に変えるだけで大家さんの先取特権を簡単にすり抜けられてしまい、大家さんがかわいそうだからです。したがって、「及ばない」とする本肢は誤りです。

 

📄 【根拠条文:民法第3132項・第314条】

【民法 第313条(土地又は建物の賃貸人の先取特権)】

土地の賃貸人の先取特権は、その土地の賃借権に基づいて敷地にされた動産及びその土地の利用に関する動産について存在する。

建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。

 

【民法 第314条(賃借権の譲渡又は転貸の場合の先取特権)】

賃借権の譲渡又は賃借物の転貸があった場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。転借人が支払うべき賃料の額については、賃貸人は、その先取特権を有する。

 

 

 

ウ:不動産工事の先取特権と価格の増加

 

【問題文】

不動産の工事の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増加額についてのみ存在する。

 

【結論:正しい】

 

どんな状況?(状況イメージ)

大工さんや工務店(工事の施工者)が、他人の建物のリフォームや工事をしたのに、代金を払ってもらえない場合に使える先取特権です。

この先取特権は、建物がいくらであっても自由に売って全額回収できるわけではなく、「工事によって建物の価値がいくらアップしたか」が勝負になります。

 

解説

条文(民法327条)そのままで、正しい記述です。

不動産工事の先取特権は、「工事によって不動産の価値が上がり、その値上がり分(増加額)が今も残っている(現存する)場合」に限り、そのアップした金額の範囲内だけに認められます。

もし、高額な工事をしたけれど建物自体がボロボロで価値が全く上がっていなければ、先取特権で回収できる枠はありません。

 

📄 【根拠条文:民法第327条(不動産工事の先取特権)】

不動産の工事の先取特権は、職人、技師及び工事の請負人が債務者の不動産に関してした工事の費用について存在する。

前項の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増加額についてのみ存在する。

 

 

 

エ:同じ先取特権が競合したときの優先順位

 

【問題文】

同一の動産について動産の保存の先取特権が互いに競合する場合には、前の保存者が後の保存者に優先する。

 

【結論:誤り】

 

どんな状況?(状況イメージ)

壊れかけた1つの高価な骨董品(動産)を、5年前にAさんが修理して価値を保ち(保存)、今年になってさらに壊れかけたのでBさんが修理(保存)したとします。しかし、持ち主が2人にお金を払いません。

同じ動産に対して、「動産の保存」の先取特権が2つぶつかってしまいました。この場合、昔に助けてあげたAさんと、最近助けてあげたBさん、どちらが強いでしょうか?

 

解説

民法のルールでは、「後から保存行為(修理など)をした人」が優先されます。

なぜなら、もし最近になってBさんが修理してくれなかったら、その骨董品は完全に壊れて価値がゼロになっていたはずだからです。Bさんが今修理してくれたからこそ、昔修理したAさんの取り分も辛うじて残ったといえます。

したがって、「後の保存者が優先する(民法3302項)」ため、「前の保存者が優先する」とする本肢は誤りです。

 

📄 【根拠条文:民法第330条】

同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、次に掲げる順序に従う。この場合において、第二号に掲げる動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは、後の保存者が前の保存者に優先する。

不動産賃貸の先取特権、旅館の宿泊の先取特権及び運輸の先取特権

動産の保存の先取特権

動産の売買の先取特権、種苗又は肥料の供給の先取特権及び農業又は工業の労務の先取特権

前項の規定により第一位の先取特権を有する者がその設定の時に第二位又は第三位の先取特権を有する者があることを知っていたときは、その優先権を行使することができない。第一位の先取特権を有する者のために保管させた物の所有者に対しても、同様とする。

果実に関しては、第一位の順位は農業の労務に従事する者に、第二位の順位は種苗又は肥料の供給者に、第三位の順位は土地の賃貸人に帰属する。

 

 

 

オ:不動産保存の先取特権と登記のタイミング

 

【問題文】

不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには、保存行為の前にその費用の予算額を登記しなければならない。

 

【結論:誤り】

 

どんな状況?(状況イメージ)

台風で屋根が吹き飛んだ家を、これ以上壊れないように緊急で修理(不動産の保存)した場合に認められる先取特権です。この権利を登記簿に載せて、後から来た抵当権などよりも強力に対抗(効力を保存)するためには、どのタイミングで登記を申請しなければならないでしょうか?

 

解説

不動産の「保存」の先取特権は、緊急事態に行われるものなので、事前の予算なんて組んでいられません。そのため、「保存行為が完了した後、直ちに」登記をすれば良いことになっています(民法337条)。

これに対して、「工事(リフォームなど)」の先取特権(ウで登場したもの)は、あらかじめスケジュールが決まっているので、「工事を始める前に、予算額を登記」しなければなりません(民法338条)。 本肢は「保存」の話なのに、「工事」の登記タイミング(事前の予算額登記)をぶつけてきた超定番の入れ替え引っかけ問題です。したがって、本肢は誤りです。

 

📄 【根拠条文:民法第337条・第338条(引っかけ防止のセット確認)】

【民法 第337条(不動産の保存の先取特権の登記)】

不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには、保存行為が完了した後直ちに登記をしなければならない。

【民法 第338条(不動産の工事の先取特権の登記)】

不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。

前項の規定による登記をした場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。

 

 

 

まとめ


正しい記述の組合せは なので、正解は 2 です。

先取特権の攻略のコツは、なんといっても「保存」と「工事」の対比です。

 

特権の種類

優先順位のルール(競合時)

登記のタイミング

不動産(動産)の保存

にやった人が強い!

行為が完了したあと直ちに

不動産の工事

(増加額の範囲内のみ)

工事を始める**前(予算額)**に!

 

「保存は緊急だから後から直ちに!」「工事は計画的だから事前に予算を!」という実務のイメージを持っておくと、試験本番でも瞬時に引っかけを弾き出すことができます。条文の言葉を味方につけて、確実な得点源にしていきましょう!

 

 

 

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