令和6年度(2024年度)司法書士試験、午前の部·第32問の解説です。
テーマは、会社がビジネスの幕を閉じる手続きである「解散・清算」。
普段の元気な会社(継続会社)とは異なり、解散した後の「清算株式会社」は「残った財産を整理して、借金を返し、最後に株主に分け前を配って会社を消滅させること」だけが目的(清算の目的の範囲内)になります。
そのため、普通の新株発行や配当が制限されたり、不要な機関が置けなくなったりと、独特のルールに切り替わります。
ここも商業登記法の記述式で「解散の登記」や「清算人・監査役の登記」を処理する上で超必須の知識です。
それでは、不必要な機関や手続きがなぜ制限されるのか、その「理由(マインド)」と一緒にスッキリ整理していきましょう!
問題文
株主総会の決議によって解散したことにより清算が開始した場合に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。 ※問題文に明記されている場合を除き、定款に法令の規定と異なる別段の定めがないものとして、解答してください。
ア 清算人は、清算株式会社の財産がその債務を完済するのに足りないことが明らかになったときは、直ちに破産手続開始の申立てをしなければならない。
イ 裁判所が選任した清算人は、重要な事由があるときは、株主総会の決議によって解任することができる。
ウ 裁判所は、利害関係人の申立てにより、清算人会設置会社でない清算株式会社の清算人に代わって当該清算株式会社の帳簿並びにその事業及び清算に関する重要な資料を保存する者を選任することができる。
エ 清算株式会社は、会計監査人を置くことができる。
オ 清算株式会社の特別支配株主は、特別支配株主の株式等売渡請求をすることができない。
【選択肢】
1:ア
エ
2:ア
オ
3:イ
ウ
4:イ
エ
5:ウ
オ
ア:財産不足が発覚したときの破産申立義務
【問題文】
ア 清算人は、清算株式会社の財産がその債務を完済するのに足りないことが明らかになったときは、直ちに破産手続開始の申立てをしなければならない。
【結論:正しい】
解説
清算手続きというのは、あくまで「会社の財産で、借金をすべて返しきれる(完済できる)」ことが前提の平和的なお片付け手続きです。
ところが、財産を調べてみたら「あれ、借金の方が多くて全然足りないぞ……(債務超過)」と判明した場合は話が変わります。
もう普通の清算手続きを続けることはできません。
この場合、清算人は「直ちに裁判所へ破産手続開始の申立て」をしなければならないと法律で義務付けられています(会社法484条1項)。
これ以降は、より厳格な裁判所のコントロール下で、債権者に公平に財産を分配する「破産手続き」や「特別清算手続き」にバトンタッチすることになります。
📌 暗記のポイント: 普通の清算中に「借金が返しきれない!」と分かったら、清算人は直ちに裁判所へギブアップ(破産申立て)すべし!
【参照条文:会社法第484条1項】
清算人は、清算株式会社の財産がその債務を完済するのに足りないことが明らかになったときは、直ちに破産手続開始の申立てをしなければならない。
イ:裁判所が選任した清算人の解任方法
【問題文】
イ 裁判所が選任した清算人は、重要な事由があるときは、株主総会の決議によって解任することができる。
【結論:誤り】
解説
前問(第31問)の「役員の解任」の応用論点です。
通常の清算人(株主総会で選ばれた人など)であれば、株主総会の決議でいつでもクビ(解任)にできます。
しかし、今回の清算人は「裁判所が選任した清算人」です。
会社に誰も引き受け手がいないなどの理由で、裁判所がわざわざ選んで連れてきてくれた清算人ですから、そのクビを切る(解任する)権限もまた、選んだ本人である裁判所にしかありません(会社法479条4項)。
いくら株主たちが総会で「この人気に入らないからクビにしよう」と決議しても、裁判所選任の清算人を勝手にクビにすることはできません。
📌 暗記のポイント: 裁判所が選んだ清算人は、株主総会ではクビにできない!(クビにできるのは選んだ裁判所だけ)
【参照条文:会社法第479条4項】
裁判所は、利害関係人の申立てにより、重要な事由があるときは、清算人を解任することができる。この場合においては、前項の規定(株主総会による解任)は、適用しない。
ウ:清算結了後の帳簿等保存者の選任
【問題文】
ウ 裁判所は、利害関係人の申立てにより、清算人会設置会社でない清算株式会社の清算人に代わって当該清算株式会社の帳簿並びにその事業及び清算に関する重要な資料を保存する者を選任することができる。
【結論:正しい】
解説
会社の後片付けがすべて終わり、会社が完全に消滅すること(清算結了)になっても、それまでの会社の会計帳簿や重要書類をすぐにゴミ箱に捨てるわけにはいきません(後から税務調査やトラブルが起きるかもしれないからです)。
会社法では、10年間は書類をキープせよと定めています。
原則として、その書類を自宅などで10年間保管する義務を負うのは「清算人」です(会社法508条1項)。
しかし、清算人に代わって別の人(例えば元親会社の人や専門家など)に預けた方が確実な場合もあります。
そのため法律は、「裁判所は、利害関係人の申立てがあれば、清算人の代わりに書類をキープする人(帳簿等保存者)を選んであげることができる」としています(同条2項)。
📌 暗記のポイント: 会社の書類の10年間キープ係は原則清算人。でも裁判所にお願いすれば、代わりにキープしてくれる人を選んでもらえる!
【参照条文:会社法第508条2項】
裁判所は、利害関係人の申立てにより、前項の清算人に代わって当該清算株式会社の帳簿並びにその事業及び清算に関する重要な資料を保存する者を選任することができる。この場合においては、前項の規定は、適用しない。
エ:清算株式会社において「消滅する機関・残る機関」
【問題文】
エ 清算株式会社は、会計監査人を置くことができる。
【結論:誤り】
解説
実務・商業登記記述式における超・最重要論点です。
会社が解散すると、これまでの取締役や取締役会、代表取締役、そして「会計監査人(大企業の計算書類を厳しく外部チェックするプロ)」は、すべて法律上当然に退任し、消滅します。
これから会社を畳んで消滅させようとしている段階なので、今後大規模なビジネスを展開することもなく、高額な費用を払ってまで会計監査人を維持・新設する必要がまったくないからです。
もし、解散前に会計監査人を置いていた会社であっても、解散の登記と同時に、登記官が「職権で会計監査人の登記を抹消」してしまいます。
そのため、清算株式会社が会計監査人を「置くことができる」とする本肢は誤りです。
📌 頭の整理(清算会社の機関パズル):
- 消滅する(置けない)もの:取締役、取締役会、代表取締役、会計監査人
- 新設されるもの:清算人、清算人会(任意)、代表清算人
- そのまま残せる(置ける)もの:株主総会、監査役、監査役会
オ:清算株式会社における特別支配株主の売渡請求
【問題文】
オ 清算株式会社の特別支配株主は、特別支配株主の株式等売渡請求をすることができない。
【結論:正しい】
解説
特別支配株主の株式等売渡請求とは、会社の株を9割以上持っている超大株主が、残りの1割の少数株主に対して「お前たちの持ってる株を全部俺に売り倒せ!」と強制的に買い取る(スクイーズアウトする)超強力な権利です。
しかし、今の会社はすでに「解散して清算中」です。
この後すぐに会社が消滅して、残った財産が株数に応じてみんなの元に分配されることが確定している状態ですから、わざわざ今さら特定の株主が他の株主を力づくで追い出す必要性が1ミリもありません。
そのため会社法は、清算株式会社においては、この株式等売渡請求をすることはできないと定めています(会社法476条)。同様の理由で、「剰余金の配当(普通の配当)」や「資本金の減少」なども清算株式会社ではできなくなります。
📌 暗記のポイント: どうせもうすぐ消滅して財産が分配されるんだから、清算中の会社で「他の株主の追い出し(売渡請求)」なんて無駄な手続きはできない!
まとめ
🏁 正解の組み合わせ
本問は「誤っているものの組合せ」を求めています。
誤っている記述は イ と エ なので、正解は 4 となります。
本試験会場での理想的な解き方ステップは以下の通りです。
- 商業登記法でも耳にタコができるほど叩き込まれる超基本知識 エ(清算会社に会計監査人は置けない ⇒ 記述は誤り) を見つける。 ⇒ この時点で、エを含む ① か ④ に絞られます。
- あとは相方の ア(財産不足なら直ちに破産申立て ⇒ 正しい)か
イ(裁判所選任の清算人を株主総会でクビにできる ⇒ 大ウソ・バツ)をチェックする。
これだけで、一見すると難しそうに見える「ウ(帳簿保存者)」や「オ(売渡請求の可否)」の判断を完全にスルーして、一瞬で 4 へ着地することができます!
清算株式会社のルールは、「今、この会社は何のために存在しているのか(=お片付けのため)」という目的意識を持っていれば、暗記に頼らなくても現場で正誤のジャッジができる論点が多いです。
特に 「エ(会計監査人は置けない)」 の知識は、午後の記述式で解散の登記が出た際に、添付書面や登記できない事項を判断するキラー知識になりますので、絶対に忘れないようにしてくださいね!

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