令和6年度(2024年度)司法書士試験、午前の部·第33問の解説です。
テーマは、合名会社・合資会社・合同会社をまとめた「持分会社」。
近年、合同会社(LLC)の設立件数は非常に増えており、実務上の重要性が増しています。
それに伴い、司法書士試験でも持分会社に関する問題が毎年のように出題されるほか、令和4年度の記述式試験では合同会社がガッツリ出題されて受験生を震え上がらせました。
持分会社を攻略する最大のコツは、「株式会社のルールとどこが違うか」、そして「無限責任社員と有限責任社員で何が違うか」を対比して整理することです。
問題文
持分会社に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。 ※問題文に明記されている場合を除き、定款に法令の規定と異なる別段の定めがないものとして、解答してください。
ア 合同会社は、各事業年度に係る貸借対照表の作成後遅滞なく、当該貸借対照表を公告しなければならない。
イ 合資会社の有限責任社員は、労務や信用を出資の目的とすることはできない。
ウ 合名会社が合同会社となるためには、組織変更計画を作成しなければならない。
エ 法人が合同会社の業務を執行する社員である場合には、当該法人は、当該業務を執行する社員の職務を行うべき者を選任し、その者の氏名及び住所を他の社員に通知しなければならない。
オ 既に合資会社に出資の履行をした有限責任社員は、当該合資会社の財産に対する強制執行がその効を奏しなかった場合には、連帯して、当該合資会社の債務を弁済する責任を負う。
【選択肢】
1:ア
ウ
2:ア
オ
3:イ
ウ
4:イ
エ
5:エ
オ
ア:合同会社における決算公告の義務
【問題文】
ア 合同会社は、各事業年度に係る貸借対照表の作成後遅滞なく、当該貸借対照表を公告しなければならない。
【結論:誤り】
解説
株式会社との超重要ひっかけポイントです。
- 株式会社の場合: 不特定多数の株主や債権者を保護するため、決算が終わったら貸借対照表(バランスシート)を世の中に「公告(こうこく)」してオープンにする義務があります(会社法440条1項)。
- 合同会社(持分会社)の場合: 持分会社は、基本的にお互いをよく知る身内同士(社員)が集まって作ったコンパクトな会社という性質を持っています。そのため、わざわざお金と手間をかけて決算を世間に広くアピールする「決算公告の義務」はありません。
実務上、合同会社が選ばれる大きなメリット(コスト削減)の一つでもあるため、絶対に間違えてはいけない基本知識です。
📌 暗記のポイント: 合同会社に「決算公告」の義務はない!(株式会社だけの面倒なルール)
イ:有限責任社員の出資対象(労務・信用の可否)
【問題文】
イ 合資会社の有限責任社員は、労務や信用を出資の目的とすることはできない。
【結論:正しい】
解説
持分会社の社員の「責任」と「出資」のバランスを問う本質的な問題です。
- 無限責任社員(合名・合資): 会社の借金を自分のポケットマネーから全額払うリスクを負っています。その代わり、お金やモノがなくても、「俺が体を使って働くよ(労務)」とか「俺の知名度や看板を貸すよ(信用)」といった目に見えない出資が認められています。
- 有限責任社員(合資・合同): 「自分が出資したお金(上限額)の範囲内でしか責任を負いません」というお気楽な立場です。それなのに、出資の内容が「俺の労働(労務)」や「俺の口約束(信用)」といった曖昧なものだと、万が一会社が倒産したときに債権者が一銭も回収できなくなってしまいます。
そのため法律は、有限責任社員については「金銭その他の財産(カタチのあるもの)」しか出資してはならないと厳しく定めています(会社法576条1項6号参照)。記述の通り、労務や信用を出資することはできません。
📌 暗記のポイント: 有限責任社員は「体(労務)」や「名前(信用)」を資本にできない! 責任が軽い分、きっちり「お金・財産」を出しなさいというルール。
ウ:持分会社「間」の種類の変更手続き
【問題文】
ウ 合名会社が合同会社となるためには、組織変更計画を作成しなければならない。
【結論:誤り】
解説
商業登記の記述式でも超頻出の、言葉の定義を問う問題です。
- 組織変更(そしきへんこう): 「株式会社 ⇔ 持分会社」というように、会社の根本的なカタチ(会社の種類)をガラッと変えることを言います。この場合は非常に重い手続きになるため、「組織変更計画」の作成や債権者保護手続きが必要になります。
- 種類の変更(しゅるいのへんこう): 「合名会社 ⇒ 合同会社」のように、持分会社の“内部のグループ”を引っ越すだけの場合です。これは会社の組織自体が変わるわけではなく、単に「定款(ていかん)を書き換える(=総社員の同意を得る)」だけで一瞬で完了します。
したがって、「組織変更計画」を作る必要はありませんので、本肢は誤りです。
📌 暗記のポイント: 持分会社どうし(合名・合資・合同)のチェンジは、ただの「定款変更」。重苦しい「組織変更計画」なんて作らなくてOK!
エ:法人が業務執行社員になったときの「職務執行者」
【問題文】
エ 法人が合同会社の業務を執行する社員である場合には、当該法人は、当該業務を執行する社員の職務を行うべき者を選任し、その者の氏名及び住所を他の社員に通知しなければならない。
【結論:正しい】
解説
合同会社の登記(商業登記法)を勉強するときに必ず出てくる重要ルールです。
合同会社では、人間(個人)だけでなく、「別の会社(法人)」が社員になって会社の業務を行う(業務執行社員になる)ことができます。
しかし、法人は生身の人間ではないので、実際に会議に出たり書類にハンコを押したりすることはできません。
そこで、法人が業務執行社員になったときは、「私の代わりに、この人(生身の人間)が実際の仕事を全部やります!」という担当者(職務執行者:しょくむしっこうしゃ)をあらかじめ選んで、他の社員にその人の氏名と住所を通知しなければならないことになっています(会社法598条1項)。
この「職務執行者の氏名・住所」は、会社の登記事項(会社の登記簿に載る内容)にもなるため、実務上極めて重要です。
📌 暗記のポイント: 法人が社長(業務執行社員)になるときは、代わりに動く「職務執行者(生身の人間)」を指名して通知する!
【参照条文:会社法第598条1項】
法人が業務を執行する社員であるときは、当該法人は、業務を執行する社員の職務を行うべき者を選任し、その者の氏名及び住所を他の社員に通知しなければならない。
オ:有限責任社員の「すでに出資を終えた後」の責任
【問題文】
オ 既に合資会社に出資の履行をした有限責任社員は、当該合資会社の財産に対する強制執行がその効を奏しなかった場合には、連帯して、当該合資会社の債務を弁済する責任を負う。
【結論:誤り】
解説
「有限責任」の本質を突いた、非常に良い問題です。
合資会社の有限責任社員は、「自分が定款で約束した出資額の範囲内(限度)」でのみ、会社の借金を返す責任を負います(会社法580条2項)。
例えば、「100万円出資します」と約束した株主がいたとします。
- まだ100万円を会社に払っていない場合:
もし会社が倒産して会社にお金がないときは、債権者から「お前、まだ会社に払ってない100万円があるだろ!それを代わりに俺に払え!」と言われたら、100万円を上限として個人資産から払わなければなりません。
- すでに100万円を会社に支払い済みの(出資の履行をした)場合(本肢):
この社員は、約束した義務を100%果たし終えています。これ以上、自分の個人の財布から会社の借金を1円たりとも弁済する必要はありません。会社にお金がなくなって強制執行が失敗したとしても、この社員の責任はすでに「ゼロ」です。
問題文は「既に支払った人」に対しても「連帯して債務を弁済する責任を負う」としているため、明確に誤りです。
📌 暗記のポイント: 有限責任社員は、約束の金額を会社に払い終えたら、それ以上の追加ペナルティ(個人の財布からの弁済)は絶対に発生しない!
だからこそ「有限(ここまでしか責任を負わない)」責任社員と呼ばれます。
まとめ
🏁 正解の組み合わせ
本問は「正しいものの組合せ」を求めています。
正しい記述は イ と エ なので、正解は 4 となります。
本試験会場での理想的な解き方ステップは以下の通りです。
- 受験生の基本中のキである ア(合同会社に決算公告義務はない ⇒ 記述はバツ) を見つける。 ⇒ この時点で、アを含む ① と ② が一瞬で消去されます。
- 次に、有限責任の本質である オ(出資を終えた有限責任社員は、会社が倒産しても追加で払う必要はない ⇒ 記述はバツ) を見つける。 ⇒ これで、オを含む ⑤ も消去されます。
残ったのは ③(イ・ウ)か ④(イ・エ)です。
ここで イ(有限責任社員は労務・信用出資はダメ ⇒ 正しい)が分かれば、ウやエの細かい知識を完全に度忘れしてしまっていても、ノータイムで 4 を選ぶことができます!
持分会社は株式会社に比べて条文の数が少なく、ルールも非常にシンプルです。
だからこそ、今回のように「株式会社との違い」や「社員の責任の性質」といった根本的な部分を問う問題が多く、一度仕組みを理解してしまえば確実に得点源にできます。しっかりとマスターしておきましょう!

0 件のコメント:
コメントを投稿