【令和7年度 司法書士試験】午前の部 第12問:民法「先取特権」の完全解説
午前の部・第12問(民法)の解説です!
本問のテーマは「先取特権(一般先取特権・動産先取特権・不動産先取特権)」に関する総合問題です。
雇用関係の先取特権の範囲、動産売買先取特権と債権譲渡に関する重要判例、即時取得の準用、不動産特別先取特権の優先順位や抵当権との優劣など、条文・判例の基本知識から頻出論点まで幅広く問われています。
それでは、各肢の論点を順番に確認していきましょう!
■ 問題文
先取特権に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、選択肢のうち、どれか。
ア 雇用関係の先取特権は、債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた最後の6か月間の債権についてのみ存在する。
イ 動産の売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においては、目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができない。
ウ 不動産の賃貸の先取特権について、即時取得の規定は準用されない。
エ 同一の不動産について不動産の工事の先取特権と不動産の保存の先取特権とが競合する場合には、不動産の工事の先取特権は、不動産の保存の先取特権に優先する。
オ 動産の売買の先取特権は、売買契約と同時に不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨の登記がされた場合であっても、その前に登記がされた抵当権に先立って行使することができない。
【選択肢】
1:ア ウ
2:ア エ
3:イ ウ
4:イ オ
5:エ オ
■ ア:雇用関係の先取特権の範囲
【記述ア】 雇用関係の先取特権は、債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた最後の6か月間の債権についてのみ存在する。
【結論:誤り(バツ)】
【解説】
民法308条は「雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する」と規定しています。
かつての民法では「最後の6か月間」という期間制限がありましたが、改正により期間制限は撤廃されました。現在は期間に関わらず、雇用関係に基づいて生じた給料等の債権全額について先取特権が存在します。
したがって、「最後の6か月間の債権についてのみ存在する」とする本記述は誤り(×)です。
■ イ:動産売買先取特権者による物上代位と債権譲渡
【記述イ】 動産の売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においては、目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができない。
【結論:正しい(マル)】
【解説】
最判平17.2.22は、登記・登録等の公示方法が存在しない**動産売買の先取特権**について、物上代位の目的債権(転売代金債権など)が譲渡されて第三者対抗要件が備えられた後は、債権譲受人等の利益を保護するため、先取特権者は目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができないと判示しました。
(※登記により公示される抵当権における物上代位と債権譲渡の関係(最判平10.1.30)とは結論が異なるため、対比して押さえることが重要です。)
したがって、対抗要件備え付け後は差押え・物上代位権の行使ができないとする本記述は正しい(〇)です。
■ ウ:不動産賃貸先取特権と即時取得の準用
【記述ウ】 不動産の賃貸の先取特権について、即時取得の規定は準用されない。
【結論:誤り(バツ)】
【解説】
民法319条は「第192条から第195条までの規定(即時取得等)は、第312条から前条までの規定による先取特権(不動産賃貸の先取特権など)について準用する」と明文で定めています。
賃借人が備え付けた動産が第三者の所有物(他人の物)であっても、賃貸人が善意無過失であれば、その動産の上に不動産賃貸の先取特権が即時取得(成立)します。
したがって、即時取得の規定が準用されないとする本記述は誤り(×)です。
■ エ:不動産特別先取特権相互間の優先順位
【記述エ】 同一の不動産について不動産の工事の先取特権と不動産の保存の先取特権とが競合する場合には、不動産の工事の先取特権は、不動産の保存の先取特権に優先する。
【結論:誤り(バツ)】
【解説】
同一の不動産について不動産特別先取特権が互いに競合する場合の優先順位は、民法331条により以下の順序に従います。
1. **不動産の保存の先取特権**(第1順位)
2. **不動産の工事の先取特権**(第2順位)
3. **不動産の売買の先取特権**(第3順位)
不動産の保存(価値維持)が最も優先されるため、「工事の先取特権」が「保存の先取特権」に優先することはありません。
したがって、工事の先取特権が優先するとする本記述は誤り(×)です。■ オ:不動産売買の先取特権と事前に登記された抵当権との優劣
【記述オ】 不動産の売買の先取特権は、売買契約と同時に不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨の登記がされた場合であっても、その前に登記がされた抵当権に先立って行使することができない。
【結論:正しい(マル)】
【解説】
不動産売買の先取特権は、売買契約と同時に登記すれば効力を保存できます(民法340条)。しかし、**登記された抵当権との優先関係は「登記の前後(登記の早さ)」**によって決まります(民法339条・337条)。
(※不動産保存・工事の先取特権とは異なり、不動産売買の先取特権には「事前に登記された抵当権に優先する」という例外的な強固な効力はありません。)
したがって、売買契約と同時に登記しても、それ「より前に登記された抵当権」に対しては先立って行使できないとする本記述は正しい(〇)です。
■ まとめ
🏁 正解の組み合わせ
本問は「正しいものの組合せ」を求めています。
・ア:誤り(雇用関係先取特権の期間制限はなし)
・イ:正しい(動産売買先取特権の物上代位は債権譲渡・対抗要件具備後は不可)
・ウ:誤り(不動産賃貸先取特権にも即時取得が準用される)
・エ:誤り(不動産先取特権の順位は保存 > 工事 > 売買)
・オ:正しい(不動産売買先取特権と抵当権の優劣は登記の前後で決まる)
正しい記述は イ と オ なので、正解は 4(イ オ) となります。
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